今日から行政書士試験の憲法について解説していきます。
まず、憲法の内容の解説に入る前に、行政書士試験の全体像と行政書士試験における憲法対策について少しお話しさせていただきます。
目次
行政書士試験対策の全体像
行政書士試験は、法令科目として、憲法、行政法、民法、商法、基礎法学の5科目と一般知識が出題されます。
行政書士試験の合格基準
満点が300点で、以下の全ての基準を満たした人が合格となります。
- 法令科目の得点が、満点の50%以上であること。
- 一般知識科目の得点が満点の40%以上であること。
- 試験全体の得点が、満点の60%以上であること。
注意しなければならないのは、2番の一般知識の科目の足切りです。全体の得点率が合格基準に達していたとしても、一般知識の正答率が40%未満の場合足切りで不合格になってしまいます。
一般知識は、それほど多くの時間を割くべきではないのですが、足切りにならない程度の最低限の勉強をしておく必要はあります。
行政書士試験の科目別配点
行政書士試験では、五肢択一式、多肢選択式、記述式の3パターンの問題が出題されます。
各科目別の出題パターンと配点は以下のようになっています。
憲法
五肢択一式:5問(5問x4点=20点)
多肢選択式:1問(1問x8点=8点)
合計:28点
行政法
五肢択一式:5問(19問x4点=76点)
多肢選択式:2問(2問x8点=16点)
記述式:1問(20問x1点=20点)
合計:112点
民法
五肢択一式:9問(9問x4点=36点)
記述式:2問(2問x20点=40点)
合計:76点
商法
五肢択一式:5問(5問x4点=20点)
合計:20点
基礎法学
五肢択一式:2問(2問x4点=8点)
合計:8点
一般知識
五肢択一式:14問(14問x4点=56点)
合計:56点
合計
五肢択一式:54問(54問x4点=216点)
多肢選択式:3問(3問x8点=24点)
記述式:3問(3問x20点=60点)
合計:300点
重視すべき科目
この科目別の配点を見ればすぐにわかると思いますが、行政書士試験の受験勉強をするにあたって、大半の時間は行政法と民法に注ぐべきなのです。
行政法と民法で高い得点を得ることができれば、本当に楽になります。
比重の少ない、憲法、商法、基礎法学については、絶対に深入りして無駄な時間を使わないことが最短で合格するために必要なことです。完璧主義は捨てましょう。
そして、一般知識については足切りにならない最低限の勉強をしておくことが大事になります。
行政書士試験の憲法対策について
行政書士試験において、憲法は、例年五肢択一式の問題が5問、多肢選択式の問題が1問出題されます。
下のグラフを見ていただければ分かると思いますが、行政書士試験における憲法の比重は約9%です。
法令科目の中での配点はそれほど高いとは言えませんが、ある程度勉強すれば五肢択一式で3問から4問と多肢選択式の1問を正解できるため、しっかりと勉強しておく必要があります。
ただ、毎年1問くらいは非常に難しいというか、ちょっとよく分からない問題が出題されています。その問題はほとんどの受験生が解けない問題のため、行政書士試験対策としては正解する必要の無い問題です。
その難しい問題も解けなければならないと思って勘違いすると、憲法に深入りして無駄な時間を使ってしまい、最も重要な行政法と民法がおろそかになって、それが原因で不合格になるということがありますので、注意が必要です。
憲法については、五肢択一式で3問から4問と多肢選択式の1問を正解できるだけの勉強をすれば十分で、それ以上は深入りしないことが重要です。
特に、憲法は、問題の3番目から7番目の最初の方に出題されるため、完璧主義の思考を持っていると、難しくて解ける必要の無い問題でひっかかって、無駄に時間を使ったり、精神的なダメージを受けてそれを最後まで引きずってしまう可能性があります。
そうならないように、ある程度の勉強をしておいて、自分が分からない問題は他の受験生も分からないんだと割り切れる自信を持てるようになることが必要です。
憲法とは?
前置きが少し長くなりましたので、少しだけ憲法の解説をして今回は終わりにしたいと思います。
これから私たちが勉強していく「憲法」というのはどのような法なのでしょうか?
「憲法」と「法律」は何が違うのでしょうか?
憲法は、簡単に言うと日本における法の中で最上位に位置づけられる根本的な法です。
そのことを規定しているのが、憲法98条1項です。
ということで、憲法98条1項を見てみましょう。
憲法98条1項:この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
憲法は、国の最高法規であり、全ての法の最上位に位置づけられるため、憲法に反するような法律などは全て無効になると言うことが規定されています。
また、憲法と法律の根本的な違いが1つあります。
それは、少し難しい言葉で言うと「規範の名宛人が違う」と言う事です。
簡単に言うと、誰が誰に対して命令しているのかが、憲法と法律では真逆だと言う事です。
例えば、刑法199条と言う法律を見てみましょう。
刑法199条:人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
刑法199条は、要するに「人を殺すな」と命令しているのですが、誰が誰に対して命令しているのでしょう?
答えは簡単ですよね。国家が国民に対して「人を殺すな」と命令しているわけです。
法律というのは、そのほとんどが「国家が国民に対して◯◯をするな。」と命令しているのです。
他方で、憲法はそれと正反対で、「国民が国家に対して◯◯をするな。」と命令しています。
例えば、憲法19条を見てみましょう。
憲法19条:思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
これは、国民の思想及び良心の自由を国家が侵してはならないということを規定していますよね。
つまり、国民が国家に対して「私たち国民の思想及び良心の自由を侵害するな。」と命令しているのです。
国民が国家に対して命令しているのが憲法で、国家が国民に対して命令しているのが法律です。
つまり、言い方を変えると、国民には憲法を守る義務が無いのです。
そのことが憲法にもはっきり書いてあるのですね。
それは憲法99条です。
憲法99条:天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
憲法99条は、憲法尊重擁護義務を定めている条文です。
「憲法を尊重して擁護せよ」と命令している条文ですね。
99条を見ると、天皇、国会議員、公務員などは憲法を尊重し擁護する義務を負うと書いてありますね。
ところが、何か大事なものが1つ抜けていることにお気づきでしょうか?
そうですね。「国民」です。
憲法尊重擁護義務を負うべき対象から「国民」がわざわざ除かれているのです。
これは憲法が「国民」を書き忘れた訳ではなく、意図的に「国民」を除くことで、国民には憲法を守る義務が無いと言うことを強調しているのです。
憲法というのは、国民が国家と戦う時に武器として使うものであって、国民には憲法を守る義務が無いのです。
これが憲法と法律の根本的な違いです。
ということで、今日は、ここまでにしておきます。
次回からは、憲法の内容の解説に入っていきます。